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南北首脳会談・米朝首脳会談による朝鮮戦争の「終結」と今次日米首脳会談を振り返る

 韓国・文在寅大統領と北朝鮮・金正恩委員長による南北首脳会談がいよいよ来週27日に板門店で行われる。既に会談実施に向けた実務者の協議も始まり、両首脳の握手の様子などを生中継するといった発表もなされている。

 金委員長は先月下旬に中国を訪れ、習近平主席と会談した。さらに5月下旬から6月上旬に金委員長とアメリカ・トランプ大統領による歴史的な米朝首脳会談も予定されており、米朝首脳会談後には習主席の訪朝や金委員長とロシア・プーチン大統領の首脳会談なども行われる見通しとなっている。この数か月で朝鮮半島情勢、ひいては東北アジア情勢が大きく展開することが予想される。

 こうした東北アジアの情勢の急展開に取り残された安倍首相は17日、慌てふためきアメリカを訪れ、トランプ大統領との首脳会談を行った。これまで「圧力」を叫び北朝鮮による日本人拉致事件など忘れ去り「脅威」を煽り立てた安倍首相は、いまになり盗人猛々しく拉致事件の解決をいいはじめ、トランプ大統領に米朝首脳会談において拉致事件について言及することを約束させた。

トランプ大統領の別荘「マールアラーゴ」(アメリカ・フロリダ州パームビーチ)にて会談する日米首脳【中日新聞2018.4.18夕刊】

 そもそも米朝首脳会談は、韓国をはじめとする外交当局者の対話の試みと米朝首脳の決断により急転直下で決まったことであり、誰も予想していなかった。誰も予想していなかった米朝首脳会談の実現を見越した上で、トランプ大統領に拉致事件の解決を頼み込むことが、安倍首相のかねてからの狙いであったのだろうか。「危機」「脅威」「国難」と得意気に煽り立てた昨年、安倍首相は「そのうち米朝首脳会談が行われるので、その際にアメリカに拉致事件の解決を依頼しよう」と考えていたのだろうか。絶対に否である。安倍首相の対北朝鮮外交がいかにもその場しのぎの場当たり的なものだということが、今回の日米首脳会談で明るみとなった。安倍首相はトランプ大統領との共同会見において、いまだ臆面もなく「圧力」の言葉を発するが、既にアメリカはアメリカCIAポンペオ長官が訪朝し金委員長と会談を行うなど、対話を開始している。

 南北首脳会談・米朝首脳会談が順調に進めば、朝鮮半島の非核化とともに休戦状態にある朝鮮戦争の「終戦」が宣言され、「朝鮮戦争終結」が現実味を帯びるといわれている。これは日本にとっても無関係な話ではない。終戦と占領統治により一時期大規模なアメリカ軍を中心とする連合軍が日本を駐留したが、その数は徐々に減少していった。しかし、朝鮮戦争によりアメリカは日本の軍事基地化を進め、在日アメリカ軍基地の数は占領終結後よりも朝鮮戦争前後の方が増加さえした。また朝鮮戦争に出征するアメリカ陸軍兵は、まず横浜に上陸し、キャンプ・ドレイク(埼玉)で配属手続きを行い、キャンプ・マウアー(長崎)を経て朝鮮へと向かった(青木深「日本「本土」における米軍基地の分布と変遷―占領期からベトナム戦争終結まで―」<『同時代史研究』第4号、2011年>)。三沢・横田・立川といった航空基地も使用され、多くの米軍航空機が朝鮮と日本を往来した。朝鮮戦争中、延べ数百万人ともいわれるアメリカ兵が日本を行き交ったといわれている。自衛隊の前身となる警察予備隊も朝鮮戦争によって発足し、さらに日本は朝鮮戦争で使用されるアメリカの兵器を製造することによって経済的に復興していった。大規模軍需工場は当然のことながら、地方都市の町工場ですらアメリカ軍が使用する親子爆弾を製造していたという証言の紹介も存在する(新津新生『朝鮮戦争と長野県民』信州現代史研究所、2003年)。

 このような歴史的経緯を有する朝鮮戦争があるいは「終結」するという一大転換点も目前にし、安倍首相は何らの独自のメッセージを打ち出すこともできなければ国際情勢にタッチすることもできていない。朝鮮戦争「終結」により在韓米軍はどうなるのか、在日米軍はどうなるのか、日本の「国連軍」施設はどうなるのか。東北アジア情勢をどのように主導していくのか、日朝関係をどのようにしていくのか。日本の過去の清算をどのように行うのか。考えるべきことは山積しているが、安倍首相に特段の意思表示は存在しない。

 日米共同会見でそうしたように、安倍首相は帰国後「拉致事件についてアメリカに約束させた」と得意気に言い放つだろうが、今回の日米首脳会談の話題の中心は貿易問題であり、実質的には日米経済交渉であった。そこにおいてもトランプ大統領にTPP不参加を明言され、FTAなど2国間交渉を進めたいと翻弄された。アメリカが設定する鉄鋼・アルミ製品の関税引き下げも叶わなかった。一体、安倍首相は今回の日米首脳会談で何を得て、何を失ったのだろうか。そしてこれまで繰り返してきた対北朝鮮強硬論によって何を得て、何を失ったのだろうか。

 東北アジア情勢はもちろんまだまだ油断ならない。トランプ大統領も場合によっては米朝首脳会談を行わないとも発言している。まさに一寸先は闇である。しかしその闇に光を灯す努力を怠ってはならない。安倍首相はそのような努力をしたことがあるのか。強く問いただしたい。

 またアメリカ自身も朝鮮戦争「終結」により、あるいは東北アジア情勢の変遷により、在韓・在日アメリカ軍の現状と今後について検討・説明する必要もあり、花瑛塾はアメリカ大使館周辺でその旨訴えるとともに、自民党本部周辺にて自民党自身が安倍外交を問い直すべき旨訴えた。

アメリカ大使館周辺