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後を絶たない米兵犯罪と米兵犯罪の捜査・処罰・受刑に関する日米密約

 11月19日早朝、沖縄県那覇市の交差点でアメリカ軍兵士が運転するトラックと軽トラックが衝突した。軽トラックを運転していた男性は救急搬送され、その後、死亡が確認された。運転していたアメリカ軍兵士は飲酒運転であり、基準値の約3倍のアルコールが検出されたといわれている。

 先日は、うるま市女性殺害事件の元アメリカ軍兵士の被告の裁判がはじまるなど、アメリカ軍兵士の犯罪(米兵犯罪)が注目を集めている。こうした米兵犯罪は、日米地位協定と日米合同委員会による日米合意によって、捜査・処罰に大きな壁が存在している。例えば、公務中のアメリカ軍兵士の犯罪は日本の法律を適用することができず、日本の警察が逮捕できないなどとなっている。

 米兵犯罪に関する不条理の一例をあげたい。1957年、群馬県内の米軍演習場にてアメリカ軍兵士・ジラードによる日本人女性射殺事件が発生した。いわゆる「ジラード事件」である。事件はジラードによる誤射ではなく、ジラードが女性に声をかけた上で背後から発砲・殺害するという残忍な殺人事件であり、日米の外交問題に発展した他、両国内で政治問題となった。

ジラード事件を報じる当時の新聞(毎日新聞「昭和毎日」)

 事件はおよそジラードによる公務中の出来事とはいえず、日米行政協定(後の日米地位協定)に基づき日本側で刑事裁判が行われたが、ジラードの量刑は懲役3年・執行猶予4年という軽微なものでしかなかった。ここには当時の岸信介政権とアメリカ・アイゼンハワー政権の密約が存在する。

 犯行の悪質さもあり、事件が発生直後より大きな話題となったことはいうまでもない。世論は国内でのジラードの刑事裁判を求めたが、アメリカ側はこれに反発し、日米の外交問題にまで発展する。そして岸首相(外相兼任)は訪米し、ジラードの国内での刑事裁判と引き換えに、軽微な処分を密約したのであった。

 岸首相の思惑は、国内で刑事裁判を行わないと、世論を前にして自己の政権が危うくなるが、過度に対アメリカ強硬論を展開することは、国内の反アメリカ感情を刺激し、反基地運動を助長することになり、ひいては共産主義の脅威に繋がるというものであり、日米密約路線に舵をきったのである。

 他方、アメリカ側にも思惑が存在した。つまりジラード事件は刑事事件ではなく偶発的な事故であり、ジラードが日本で罪なく罰せられてしまうという世論が高まる一方で、この問題を放置すると対日関係を悪化させ、在日アメリカ軍基地の円滑な運用を困難にし、それは自由主義陣営を危うくし共産主義勢力を資するというものである。

 不条理や日米密約によるアメリカ軍兵士への特別待遇は、刑事事件における捜査・処罰だけに留まらない。公務外による犯罪で日本の警察により逮捕され、刑が確定したアメリカ軍兵士の日本の刑務所における処遇すら特別待遇が存在する。元アメリカ軍兵士受刑者は、横須賀刑務支所に収容されるが、そこでは日米地位協定・日米合同委員会による日米合意に基づき、食事・暖房・入浴・就寝時間など、日本人受刑者とは全く異なる特別待遇を受ける。

米兵受刑者と日本人受刑者の刑務所での献立の違い(「しんぶん赤旗」2008年5月17日)

 2006年における衆議院での政府への質問主意書とその答弁や国会質疑では、収容中のアメリカ軍兵士受刑者がステーキなど日本人受刑者とは異なる食事を摂取し、スチーム付きの居室が与えられ、日本人受刑者には週2回前後しか認められていない入浴も、シャワーなどを含めて毎日あるということが明らかとなっている。

 受刑者の人権尊重は当然であり、生活水準の向上も大切なことである。日本の行刑があまりに前近代的であり、受刑者の処遇改善は大切なことであるが、そこに日米の差があってはならない。こうしたアメリカ軍兵士への特別待遇が「何をしても平気」という雰囲気を醸成し、綱紀が弛緩し、つまるところ米兵犯罪の遠因となっていることが想像できる。

 日米地位協定・日米合同委員会による日米合意よると、米兵犯罪は公務中かどうかで捜査・処罰が大きくかわる。また「公務中」でなくとも日米の政治的取引により真っ当な捜査・処罰が行われなかった歴史があることはジラード事件が証明している。さらに受刑者処遇すら歪められ、日本人とアメリカ軍兵士の人権に差別が存在している。そして、そうしたアメリカ軍兵士の特別待遇の影で苦しむのは、何の罪もなく生きる市井の人々であることを忘れてはならない。