令和元年1月14日 「葦津家之墓」墓参

 戦前の神道家・実業家、そして言論人である葦津耕次郎、およびその子珍彦の眠る「葦津家之墓」を墓参しました。

 葦津耕次郎は明治11年(1878)、筥崎宮の神職である父磯夫と母とらの次男として福岡県箱崎の地に生まれ、筥崎宮に奉職し神明奉仕に励み、後には鉱山業や社寺建築業を営む実業家として活躍する一方、朝鮮神宮御祭神論争など神道・神社の見地から時の政治・社会問題に発言する言論人としても活躍し、昭和15年(1940)に亡くなりました。

 珍彦は明治42年(1909)、そんな父耕次郎と母ナニハの長男として生まれ、戦前は時にアナキズムや社会主義の思想に親しむも、耕次郎の跡を継いで社寺建築業を営みながら、神道的言論人として戦争に向かう時の政治を厳しく批判、戦後は神社本庁の設立に尽力し、活発な言論活動を展開しました。その言論は各方面に多大な影響力を有し、雑誌『思想の科学』の中心的人物である哲学者の鶴見俊輔と親しく交わったことはよく知られています。

 珍彦は平成4年(1992)に亡くなり、戦前より居を構えた鎌倉の地に耕次郎とともに(母ナニハや珍彦の妻テルも同じであろうが)「葦津家之墓」に眠っています。

【解説】中東沖への自衛隊派遣は石油タンカーなど日本商船を護衛するための措置ではない

自衛隊が日本の石油タンカーを護衛する?

 米トランプ大統領は9日、イスラム革命防衛隊ソレイマニ司令官殺害へのイランの報復攻撃をうけ、「軍事力を用いたくない」と発言した。これにより米国とイランの報復の連鎖という決定的局面はぎりぎりで回避された。

イランへの報復は行わないと発表するトランプ大統領:AFP 2020.1.9

 しかし、米国はイラン核合意からの一方的な離脱を見直そうとせず、ソレイマニ司令官殺害という無法への反省もない。米国とイランの対立は、本質的には何もかわっていないのである。

 一方で日本政府も昨年末に閣議決定した海上自衛隊哨戒機・護衛艦など中東沖への自衛隊派遣について見直そうとしていない。安倍首相自身が中東各国歴訪を急遽取りやめたというのに、である。

 こうした自衛隊派遣反対の世論は日を追うごとに高まっているが、反面、中東沖への自衛隊派遣について、危険なイラン周辺海域を航行する石油タンカーなど日本の商船を護衛する任務なのだから、日本の資源や日本人船員の命を守るためにはやむをえないのだ、あるいはもっと積極的に派遣するべきだ、という言説も散見される。

 結論からいうと、それは事実ではない。派遣される自衛隊に日本商船護衛の任務はない。以下、それについて確認したい。

自衛隊派遣の根拠は「調査・研究」

 今回の中東沖への自衛隊派遣は、防衛省設置法第4条の「所掌事務の遂行に必要な調査及び研究を行うこと」を根拠とする。あくまで現地情勢を「調査・研究」し、安全確保に向けた情報収集態勢を強化するため自衛隊は派遣されるのであり、そもそも中東沖を航行する石油タンカーなど日本商船の護衛の任務は与えられていないのだ。

 過去、ソマリア沖での海賊事案に対処するため、海上自衛隊が中東沖を航行する日本の商船を含む各国商船を護衛する海賊対処行動があったが、これは国連安保理決議を前提としつつ、当初は発令された海上警備行動に基づき、後には新たに制定された海賊対処法に基づいて派遣された。つまり自衛隊による商船護衛には、それ相応の根拠法令や手続きが必要であり、それはけして防衛省設置法に基づく「調査・研究」といったものではできない。

不測の事態における武器使用について

 今回、中東沖に派遣される護衛艦に対し、他国や何らかの勢力による攻撃という不測の事態の発生が考えられる。その場合は当然、正当防衛の範囲内で武器を使用して反撃することは可能である。しかし、それは言うまでもなく「日本商船の護衛」とは無関係である。

中東沖へ派遣予定の護衛艦「たかなみ」 出典:海上自衛隊ホームページ

 日本の商船が攻撃された場合、海上警備行動が発令されれば、護衛艦が攻撃された商船に駆けつけ、武器を使用し対処することは可能である。ただし、海上警備行動の発令には閣議決定が必要であり、すぐに対処できるというものではない。また、それはあくまで不測の事態の発生をうけての保護・救出であり、「護衛」とは異なる。

 といっても、あらゆる日本の商船に対して武器を使用して保護・救出ができるものではない。国際法上、あくまで日本船籍の商船に対してしか武器使用は認められていない。

 しかし、中東沖を航行する日本船籍の商船は圧倒的に少なく、ほとんどの日本向け商船は外国船籍である。外国船籍だが日本企業が運航する商船、外国船籍だが主たる貨物が日本向けの商船、あるいは外国船籍だが日本人船員が乗船する商船などを「日本関係船舶」というが、こうした日本関係船舶に対する対処の場合、海上警備行動が発令されても武器使用は認められていないのである。

自衛隊が派遣される海域はどこか

 自衛隊が派遣される予定の海域も、イラン周辺海域というわけではない。

自衛隊が派遣される予定の海域:日経新聞2019.12.4

 今回、自衛隊が派遣される予定の海域は、あくまでもイエメンやソマリア沖のアデン湾、あるいはオマーン付近のオマーン湾、そしてアラビア海北部の公海上であり、イランと近接するホルムズ海峡やペルシャ湾とは異なる。

 中東における日本の原油輸入先は、主にサウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、クウェート、カタールなどである。こうした国々から原油を日本に運搬する場合、石油タンカーはペルシャ湾やホルムズ海峡などイラン周辺海域を航行するが、そこには自衛隊は派遣されない。

 その上で、今こうしている間にも、イラン周辺海域は各国の石油タンカーが無数に航行しているが、それらの商船がイランに攻撃されているわけではないことはしっかり確認したい。イランのイスラム革命防衛隊は昨年7月、ホルムズ海峡で英国のタンカーを拿捕したが、それは英国によるイラン商船の拿捕への報復といわれており、事の是非はともかく、無差別な軍事攻撃を行っているわけではない。

 危険な任務に就く日本船籍商船や日本関係船舶、あるいは日本人船員、そればかりではなく各国の商船や船員には敬意を払うものだが、現地の情勢を冷静に見通す視線は必要ではないだろうか。

なぜ自衛隊は中東沖に派遣されるのか

 それでは、なぜ自衛隊は中東沖に派遣されるのか。

 それは米国が昨年、ホルムズ海峡やペルシャ湾の石油タンカーなど商船を護衛するために呼びかけた「有志連合」への事実上の参加と考えられる。

 もちろん日本政府は公式には有志連合への参加を否定しており、先ほど述べたように自衛隊の派遣海域もイラン周辺海域とは異なる。また商船護衛の任務もない。

 そもそも日本はイランの油田開発などに参入し、巨大な石油権益も保持していた。過去、日本はイランから大量の石油を輸入しており、日本とイランの関係は長く友好的であった。昨年は安倍首相がイランを訪問し、ロウハニ大統領や最高指導者のハメネイ師とも首脳会談を行っている。

イランの南アザデガン油田 日の丸油田ともいわれたが、経済制裁により開発が挫折:2018.11.5

 しかし、米国とイランは「宿敵」ともいえる関係にある。オバマ政権下でイラン核合意が実現されたものの、トランプ大統領は核合意からあっさりと離脱し、イランへ制裁を科すなど敵意をむき出しにしている。また経済制裁により日本の石油権益も失われてしまい、石油の輸入も途絶えてしまった。

 こうした状況下、米国の有志連合の呼びかけには応じなければならないが、かといってイランとの決定的な対立は避けたいという板挟みにあって、有志連合とは別のかたちで自衛隊を派遣し、米国の顔を立てながらもイランとの敵対を避けるという、日本政府の矛盾に満ちた外交の行き着く末が今回の中東沖への自衛隊派遣といえる。

 安倍首相は「外交の安倍」を自称し、米国とイランの仲介役になると語っていたが、結局は米国とイランの緊張緩和を実現することもできず、両国の対立関係のなかで追い込まれに追い込まれ、なすすべもなく、派遣の法的根拠も曖昧、手続き上も問題があり、それでいて日本の商船を護衛するわけでもない、何の効果があるかもよくわからないが、しかし非常に危険な自衛隊派遣に乗り出そうとしている。

 絶対安全圏の権力者が、自分が助かるために若者を死地に送るのが戦争の本質である。そして、そのために「国家を救うためだ」「祖国を守るのだ」「国民の命が危険にさらされている」「平和を実現するためには犠牲もやむを得ない」といったプロパガンダのような言説も動員される。

 今回の自衛隊派遣とそれを肯定するための「自衛隊が石油タンカーを護衛する」「日本人船員の命を守れ」といった言説に、そうした闇を見るものである。

【高まる米国・イランの軍事的緊張】日本は中東沖への自衛隊派遣を撤回し、非軍事・平和外交による「戦わないための戦い」を全力で戦おう

米国によるイラン革命防衛隊幹部の殺害と中東の緊張

 令和2年、2020年の新しい年を迎えたばかりの1月3日、驚くべきニュースが飛び込んできた。米国防総省がこの日、イラクのバクダッド国際空港を空爆し、イランの軍事組織であるイスラム革命防衛隊の精鋭部隊「コッズ部隊」のソレイマニ司令官を殺害したと発表したのである。

殺害されたソレイマニ司令官:BBC 2020.1.3

 イランの最高指導者ハメネイ師は「手を血で汚した犯罪者を待っているのは厳しい報復だ」と報復を宣言し、ザリフ外相も「極めて危険で愚かな緊張の拡大だ」と米国を強く非難した。またラバンチ国連大使も「我々は目を閉じていられない。間違いなく報復する。厳しい報復だ」と米側記者団に語り、軍事行動に出るとも宣言した。

 今回の米国の軍事行動では、イラクのシーア派組織の連合体である人民動員隊の指導者ムハンディス氏も殺害されたため、人民動員隊の全戦闘員が戦闘準備に入ったとも伝えられている。

 イラクのシーア派組織はレバノンのシーア派組織であるヒズボラとも関係が深い。そのためヒズボラは対米報復を宣言している。また、ヒズボラは過去、イスラエルへのロケット弾攻撃などの武装闘争も行っているが、そのイスラエルは米国の軍事行動を支持しており、イランのみならず中東全域で軍事的緊張が高まっている。

米国の軍事行動の問題点とトランプ大統領の浅慮

 トランプ大統領は今回の米国の軍事行動について、ソレイマニ司令官が米国人に対する「差し迫った邪悪な攻撃」を企てていたため、ソレイマニ司令官殺害を指示したと明らかにした。また「彼は非常に大規模な攻撃を計画していた。我々は彼を仕留めた」、「戦争を避けるための措置だ」などとも述べ、軍事行動を正当化した。

 米国防総省は「ソレイマニ司令官がイラクや中東全域で米国の外交官や米兵を攻撃する計画を進めていた。ソレイマニ司令官とコッズ部隊はこれまで、数百人の米国人を殺害した」、「米軍は大統領の命令で、海外展開する人員を守るために決定的な自衛行動を取った」などと説明し、米国に対する新たな攻撃を防ぐための先制攻撃であり、自衛の措置だったと声明した。

米国により空爆された車両:CNN 2020.1.4

 もちろんイスラム革命防衛隊は慈善団体でも何でもない。純然たる軍事組織であり、ソレイマニ司令官はそのなかでも精鋭部隊を率い、イラクにおける反米闘争を指揮してきたといわれる。彼はけして無辜の民ではないし、まして平和の使者というわけでは全くない。米国がソレイマニ司令官を非難し、その罪状を追及することそのものには、一定の道理もあろう。

 しかし、だからといってイラクという一つの国家の領域内において、イラクにとっての他国である米国が、さらに他国であるイランの要人を殺害するために軍事行動をとるなどということは、イラクの主権を侵害する行為に他ならない。イラクのアブドルマハディ首相は、米国の軍事行動は駐イラク米軍地位協定違反であると抗議している。そればかりかこのたびの米国の軍事行動は、先制攻撃として自衛権に関する国連憲章に違反する重大な疑義がある。

 また、米国の軍事行動は、中東全体の軍事的緊張を高め、ただでさえ一触即発の状態にあった米国とイランの対立を決定的にするものであり、後戻りできない状況に両国を追い込み、軍事衝突の段階にあえて突入しようとする挑発以外の何ものでもない。これまで米国の指導者は、ソレイマニ司令官の反米闘争について注視し、彼の排除を目論んできたが、それでもなお事の重大性に鑑み、彼に手を出すことは控えてきた。こうした経緯を踏まえると、このたびの米国の軍事行動とそれを指示したトランプ大統領の判断は、あまりに浅はかで、米国とイラン、そして世界を危険にさらす暴挙といわざるをえない。

日本の進むべき道─「戦わないための戦い」を全力で戦おう
中東沖での自衛隊の活動範囲:日経新聞2019.12.27

 事態が緊迫するなか、これまでにイランを訪問し、ハメネイ師やロウハニ大統領と首脳会談も行った安倍首相は、何か特別な対応をするわけでもなく、映画鑑賞にゴルフにと正月休みを満喫している。

 プレー中のゴルフ場で中東情勢について問われた安倍首相は、「再び中東を訪れたい」などと答えたようだが、そもそも昨年の安倍首相のイラン訪問は、米国がイラン核合意から離脱するなか、米国とイランの緊張緩和を目指すものではなかったのか。今回の軍事行動に至るまで、安倍首相はどのような外交努力をし、両国の緊張緩和をはかったというのか。そして今、彼は何をやっているのか。安倍首相は「外交の安倍」ではなかったのか。

 安倍首相が行うべきは何よりもまず、防衛省設置法の「調査・研究」に基づく海上自衛隊護衛艦や哨戒機など中東沖への派遣という昨年末の閣議決定を、ただちに撤回することだ。

 それはけして「弱腰外交」などではない。また、中東の混乱や緊迫から日本が逃げることを意味するものではない。

 そもそも軍事的に緊張する米国とイランの間に、さらに日本が軍事力で介入することは、まさしく火に油を注ぐ行為である。たとえこのたびの自衛隊派遣がホルムズ海峡やペルシャ湾から遠ざかり、必ずしも米国が呼びかける「有志連合」に参加するものではないとしても、このタイミングで中東沖に実力組織を派遣することが、どれだけ危険な政治的メッセージか少し考えればわかることだ。まして特措法や国会承認に基づかない防衛省設置法による「調査・研究」のための自衛隊派遣など、絶対にあってはならない。

イランが「報復」を宣言するなか、ゴルフに興じる安倍首相:共同通信2020.1.4

 軍事力と軍事力のにらみ合いのなかに軍事力を繰り出すのではなく、今こそ日本は非軍事・平和外交をもって米国とイランの緊張緩和という困難ながらも崇高な使命を達成するべきだ。「戦わないための戦い」である。それはオバマ政権下で実現したイラン核合意の枠組みへ米国が復帰するようトランプ大統領に呼びかけることであり、イランに対しては軍事的報復を絶対にしないよう自重を求めること、そして国際社会全体が「平和の有志連合」となり、米国とイランが短兵急な行動をとらないよう「平和のバリケード」を築き上げることである。

 神社界を代表するメディアである神社新報は昭和25年7月、折からの朝鮮戦争と、それによる日本再軍備と日本人義勇軍の朝鮮半島への派遣問題をうけて、社説において

不法なる武力に侵略された国々と人々の不幸に対しては、同情の念禁じがたきものがある。さればとて、その同情の故に武器を携へて救援に赴くと云ふが如きことは、少くとも現在の日本人のなすべきことではない。

 われわれは、平和を守るためには、強きますらをの魂を有たねばならぬ。かの八月十五日以来、われわれは新しい道を発見したはづである。

 かの聖ガンヂーも云つたやうに、たとへ侵略者は不法な領土の占領を敢てすることができても、われわれを統治することはできないであらうし、況やわれわれの精神と思想とを支配することはできないであらう。現下の日本人にとつて、最も必要なのは、侵略者に対抗するための軍備を急ぐことでもなければ、武器を携へて海外の義勇軍に身を投ずることでもない。

 百万の侵略軍の威圧下にあつても、心臆せず、毅然としてわが信仰を守り通し得るだけの精神的威力を養ふことである。この精神的威力こそが、平和にして然も赤化の暴力に対抗し得る日本人の第一の武器とならねばならぬ。

とあくまでも平和を求め、にわかに現実化する再軍備を批判し、朝鮮半島への義勇軍派遣に反対している。これこそ戦後間も無くの青年神道家の良質な思想である。

 時に蛮勇を振るうことも必要だが、匹夫の勇をもって覇を唱えることは日本の進むべき道ではない。中東の混乱を収束させ、多くの人々の命を救うためにも、日本は非軍事・平和外交の「戦わないための戦い」を全力で戦おう。「外交の安倍」が本当に「外交の安倍」ならば、それができるはずだ。

 以下、参考までに昨年の「有志連合」構想についての花瑛塾の見解を掲示しておく。

イラン沖「有志連合」の結成と日本の参加に反対する 「外交の安倍」は平和的解決のため今すぐ行動を

令和元年の終わりに

お代替わりと自然災害、被災者

 早いもので今年も間も無く暮れようとしています。

 今年一年を振り返りますと、何といっても上皇陛下の退位と、それに伴う天皇陛下の即位、そして改元など、平成から令和へのお代替わり(「御代替わり」は歴史的には「みよがわり」ではなく「おだいがわり」と読まれてきたそうです)が思い起こされます。この一年、お代替わりに関する様々な儀式や行事が目白押しでしたが、恙なく執り行われましたこと、まことによろこばしい限りでした。

 昭和から平成へのお代替わりにおいては、「天皇決戦」なるスローガンを掲げた過激派が爆弾闘争を繰り広げたといわれていますが、このたびのお代替わりにおいては、そうしたテロ・ゲリラが起きることもなく、まさに隔世の感をおぼえます。

 一方で、今年立て続けに発生した豪雨や台風といった自然災害を考慮し、即位礼の祝賀御列の儀(いわゆる祝賀パレード)が延期となりました。

 30年前のお代替わりにおいて吹き荒れた過激派の爆弾闘争も、お代替わりそのものには何らの影響を与えることもできませんでしたが、このたびのお代替わりにおいては、自然の猛威を前にしてそうはいきませんでした。

 お代替わりをとめたのは、「天皇決戦」「大喪の礼粉砕」「即位の礼粉砕」「天皇制打倒」を呼号した過激派の爆弾闘争ではなく、自然災害であった──この事実は、私たちの国、私たちの社会が、これから真に立ち向かうべきものは何かをよくあらわしているように思います。

ブルーシートに覆われた屋根が目立つ館山・布良:毎日新聞2019年10月31日

 また、被災者たちは、つい最近まで避難所暮らしを余儀なくされ、今なお多くの人が仮設住宅に住んでいます。台風により破損した家の屋根をブルーシートで覆った状態で年を越す被災者も少なくありません。

 昨年12月23日、天皇陛下として最後の天皇誕生日に際し、上皇陛下はこれまでのご生涯と象徴天皇としてのつとめを振り返るお言葉を述べられましたが、そこで上皇陛下は

この1年を振り返るとき、例年にも増して多かった災害のことは忘れられません。集中豪雨、地震、そして台風などによって多くの人の命が落とされ、また、それまでの生活の基盤を失いました。新聞やテレビを通して災害の様子を知り、また、後日幾つかの被災地を訪れて災害の状況を実際に見ましたが、自然の力は想像を絶するものでした。命を失った人々に追悼の意を表するとともに、被害を受けた人々が1日も早く元の生活を取り戻せるよう願っています。

と述べています。天皇陛下も先日、台風19号により大きな被害をうけた宮城県や福島県の被災地を訪れ、被災者を見舞われましたが、今年一年がお代替わりの年として記憶される一方で、私たちも上皇陛下や天皇陛下が常に寄り添われている被災者の身の上に思いを致し、国民とともにある象徴天皇の意味を考え、その意義を発揚していく必要があるのではないでしょうか。

「粉飾決算」としてのアベノミクス

 この寒空の下、路上・野外で年の瀬を過ごすことを余儀なくされた路上生活者・野宿者が多数います。また、困窮や病に苦しんでいたり、障害を持つなかで、明日どうなるかわからない不安定な状況で年を越す人も多くいます。

アベノミクスの「偽装」:朝日新聞2019年2月7日

 先ほど述べた台風などの被災者への支援も充分ではありませんが、こうした社会的な弱者への行政による福祉もあまりに不充分なのが現実です。厳しい経済状況のなかで、行政は福祉への予算措置を真っ先に削減しており、被災者や社会的弱者への手当ては行き届いていません。

 一方で安倍政権は「アベノミクス」なる経済政策により過去最長の好景気が続いていると吹聴しています。それが事実であれば、なぜ福祉の予算が削減されているのでしょうか。なぜ福祉を受けられない社会的弱者がいるのでしょうか。なぜそれだけ好景気でいながら、社会全体にそんな余裕がないのでしょうか。

 今年早々には毎月勤労統計の不正が発覚しました。安倍首相が「アベノミクスの成果」と言い張る名目GDPの上昇にも、データの水増しが指摘されています。いわばアベノミクスとは不正なデータ操作によるところの「粉飾決算」であり、「過去最長の好景気」は実際は架空・偽装だという可能性があります。

 実際に実質賃金は上昇しておらず、デフレ脱却も実現していません。さらに秋元司議員の汚職事件で話題となったアベノミクスの成長戦略の柱であるIRですが、その本質は単なるカジノ・賭博・博打であり、アベノミクスの成長戦略の内実は、非常にお寒いものがあります。

民主主義の腐敗を養分とする安倍政権

 今年の春に開催された「桜を見る会」で、安倍首相は「平成を名残惜しむか八重桜」「新しき御代寿ぎて八重桜」との俳句を詠みました。新しい元号となった「令和」について、「俺が命名したんだ」「俺の時代なんだ」とでも言いたげな俳句ですが、実際にこれまで元号は漢籍を典拠としたところ、安倍首相から万葉集に限定して元号案を作成するよう中西進氏に指示があったそうであり、まさに「俺が命名したんだ」「俺の時代なんだ」と思うほどの「元号私物化」が行われていました。

今年の桜を見る会で挨拶する安倍首相:毎日新聞2019年12月26日

 桜を見る会と私物化といえば、この桜を見る会そのものの私物化、公的行事や公金の私物化が国会で厳しく追及されました。しかし「桜」の追及から身をかわし、国会・予算委員会から逃げ続けました。参院規則で開催しなければならない予算委員会すら開催しないという、恐るべき国会軽視が堂々と横行しています。

 先日のNHKスペシャルで麻生副首相・財務相が「この政権は強いんだ」と言い放ったそうですが、国会からも逃げ、記者からも逃げ、公金で支持者・後援者・有権者を買収し、批判には一切耳を傾けなくていいのであれば、それは強い政権が維持できるでしょう。間違いなく安倍政権は強い政権であり、図太い政権です。

 安倍政権は強く、図太く、国会から逃げ、マスメディアから逃げ、国民から逃げ続け、そして民主主義を腐敗させていきました。そうした民主主義の腐敗を養分とし、長期政権が維持されていったのです。そこに元号私物化、公的行事私物化、外交私物化、国有地私物化という国政私物化・国家私物化というさらなる強烈な腐敗が常態化していきました。

 どれだけ安倍政権を批判しても何も届かず、何もかわらず、攻撃は最大の防御とばかりに恣意的に解散権を行使し、野党をなぎ倒し、何年にもわたって絶対多数の政権を維持し続ければ、国民・有権者が政治的関心を失うのも当然のことです。何もかわらないのだから怒りも湧かないし、期待を持つこともないでしょう。もちろん、政治的関心を失った国民・有権者が選挙権を行使するわけはなく、安倍一強は維持され続けます。

 そうであれば、この大情況を変革するのは簡単な話なのかもしれません。民主主義に血を通わし、民主主義の腐敗を断ち切り、彼らに養分を与えないこと。すなわち国会やメディアがしっかりと政権を批判、追及し、人々が声をあげていくことです。何事もなければ、来年早々の通常国会では「桜」の追及が再開されます。この通常国会ばかりは安倍首相でも逃げることはできません。実際に今年、「桜」に関する予算委員会質疑一つで情勢は大きくかわりました。民主主義が機能すれば、この政権はあっという間にぐらつくのであり、来年にはその機会が待ち受けています。

 もちろん、通常国会の冒頭で安倍首相が衆議院を解散する可能性はあります。こうした恣意的な解散権の行使そのものが民主主義の腐敗の象徴ですが、野党がしっかりと連携し、きちんとした政権構想を打ち出し、国民・有権者の声を反映する態勢を確立すれば、解散総選挙でも勝利の余地はあります。少なくとも負けない戦いはできるでしょう。そうした時、国民・有権者は「政治はかわるのだ」という実体験に基づき、政治的当事者としての感覚を取り戻すことになり、また一つ民主主義に血を通わし、安倍政権の養分を断つことができるでしょう。

千万人と雖も我往かん

 神道言論人葦津珍彦は「一票の無力さの実感」という小論で

日本国では、いつも選挙が行われており、国民は一票を投ずる。国民たれもが投票権をもっており、主権者だといわれている。だが投票をするたびに、その一票の無意味さを痛感させられる。その一票が国の意思を定めえたとの実感がない。これは保守とか革新というのではなく、自分の意思、精神というものを多少でも明瞭に見つめている人には、共通の心理なのではあるまいか。

と述べています。まさに現代の政治状況に通じるような一節ですが、葦津はけして自身の一票を数千万人の有権者のうちの一票、すなわち自身の意思と祖国の意思の関わりは数千万分の一のものと考え、国の行く末に無気力・無関心であってはならないとします。中国の孟子からヨーロッパのルソーまで、天意と表現するか一般意思と表現するかは別として、祖国の意思と自身の意思は全的に直通しており、そこにおいて祖国への忠誠があり得ると葦津はいうのです。

 孟子はそれを「千万人と雖も我往かん」とも表現しますが、まさしくそうした精神こそが現在の安倍政権のぐらつきを生み出していったものだと思います。高江ヘリパッド建設による北部訓練場の一部返還式典から3年の月日が経ちますが、あのころ権力の絶頂の高みから沖縄に襲いかかっていた菅官房長官など、今や記者会見の場でも記者の追及に右往左往し、「ポンコツ」扱いされています。人々が自身の意思に確信をもって政権に立ち向かう時、状況は必ず変化していきます。

 来年もまた「千万人と雖も我往かん」の矜持をもって、戦っていきたいと思います。引き続きのご支援とご協力、ご指導ご鞭撻、叱咤激励をよろしくお願い申し上げます。

令和元年12月22日 アキノ隊員のグアム・やんばるトーク(ONE LOVE 高江)

 「アキノ隊員のグアム・やんばるトーク」(主催:ONE LOVE 高江)に参加し、お話しを伺いました。

お話しされるアキノ隊員

 第一部では、NAKAMURA MIZUKI 氏がグアムの米軍基地建設についてお話しされるとともに、アキノ隊員(宮城秋乃氏)がグアムの昆虫や生態系についてお話しされました。

 特に NAKAMURA MIZUKI 氏は、パレードが有名な毎年7月21日のグアム解放記念日に触れるなかで、グアムはアメリカの一部であっても自己決定権がない理由などを掘り下げながら、沖縄とアメリカの関係とグアムとアメリカの関係を対比しつつ説明いただきました。

 第二部はやんばるトークとして、アキノ隊員が北部訓練場返還地のリアルタイムの状況をお話しされました。

 直前に北部訓練場内に進入したとして市民が刑事特別法で逮捕される事件がありましたが、基地に進入した市民を刑特法を用いて弾圧はするけど、日米合同委員会における日米合意(密約)によって米軍は野放しというなんとも情けない日本の体制側にガッカリするし、わじわじする(「腹が立つ」という意味の沖縄の言葉)というアキノ隊員の思いから、日本がいかに植民地であるかということを痛感しました。

 また、この日、昨年に引き続き、埼玉県護国神社で開催された餅つき大会に参加しました。この餅つき大会は今年で4回目であり、実行委員として毎回参加させていただいています。

 今年も50kgものもち米を使って、神前に奉納するのし餅と参加者に振る舞うお餅をつき、その後に神事が執り行われ、神前にお餅を献上し、篳篥を奉奏しました。

 餅つき後、乃木神社(東京都港区)を参拝した他、青山霊園内の大久保利通公の墓所をお参りしました。

令和元年12月20日 KAEI SEMINAR「沖縄『北部訓練場』返還地の現状─返還されてなお沖縄を苦しめる米軍基地の環境問題─」

 この日、チョウ類研究者のアキノ隊員こと宮城秋乃さんを KAEI SEMINAR の講師にお招きし、「沖縄『北部訓練場』返還地の現状─返還されてなお沖縄を苦しめる米軍基地の環境問題─」とのテーマでお話しをお伺いしました。

お話しされるアキノ隊員

 3年前の平成28年12月22日、沖縄北部の東村高江集落を取り囲むように4ヵ所のヘリパッドが建設されたことと引き換えに、米軍演習場「北部訓練場」の過半が日本側に返還されました。

 沖縄防衛局は返還地における米軍が廃棄したとみられるゴミや弾薬類を除去し、その一年後に地権者に返還地を引き渡しました。さらに国は返還地を含む沖縄北部一帯を国立公園とし、世界自然遺産登録を目指しています。

 しかし、毎日のように沖縄北部の森の中に入り希少生物の生態の研究をしているアキノ隊員は、国頭村など北部訓練場返還地で無数の米軍の空包、空薬きょう、照明弾などの弾薬類、使用したばかりとみられる携行糧食などを発見しています。また、返還地のヘリパッド跡に米軍ヘリが離発着するところも目撃するなどしています。

 こうしたことを考えると、沖縄防衛局は北部訓練場返還地の廃棄物除去をまともに行っておらず、ゴミや弾薬など危険なものが大量に残され、環境にも有害な土壌汚染などもある状況で返還地を含む一帯の世界自然遺産登録を進めようとしているといえます。また、北部訓練場の過半が返還されたといっても訓練空域はかわらず、米軍ヘリが四六時中北部一帯を飛び回る状況に変化はありません。それどころか、返還地を今でも演習で使っているとも推測されます。

 米軍基地は返還されたなお、ノグチゲラをはじめとする多数の希少生物が生息する森の自然環境に深刻なダメージを与え、また人々の生活にも今なお影響を与え続けていることを気づかされました。

 講師のアキノ隊員と当日セミナーにご参加いただいた皆様に御礼申し上げますとともに、当方の不手際でセミナー中に機材トラブルでご迷惑をおかけしましたこと、お詫び申し上げます。

【お知らせ】KAEI SEMINAR「『国体論』と沖縄・アジア」白井聡さん

2020年2月1日(土)開催の公開セミナーのご案内です。
ページ下部のフォームよりお申し込み下さい。

『国体論』と沖縄・アジア

 異常なまでのアメリカ隷属、先の大戦への真摯な反省の欠如、民主主義の軽視、沖縄への冷酷な態度、朝鮮半島・アジア蔑視──枚挙にいとまないほどの安倍政権の問題点だが、それは何もこの政権に限った特別なものではない。

 戦後の日本は「敗戦」を「終戦」と呼びかえるような「敗戦の否認」を続けてきた。講師はこれを「永続敗戦レジーム」と規定するが、このレジームにこそ先のアメリカ隷属をはじめとする安倍政権そして戦後日本の問題がある。

 永続敗戦レジームと、そこにおいて構成的外部として疎外されてきた沖縄、侮蔑の対象とされてきた朝鮮半島・アジアの問題、さらに戦後の「国体」とまで化していったアメリカ隷属の問題などについて、講師よりお話しを伺いたい。

講師:白井聡さん 京都精華大学人文学部専任講師

講師プロフィール

東京都出身。早稲田大学卒業。一橋大学大学院博士課程単位修得退学。博士(社会学)。京都精華大人文学部専任講師。主著に『未完のレーニン─「力」の思想を読む─』(講談社選書メチエ)、『永続敗戦論─戦後日本の核心─』(太田出版、講談社+α文庫)、『国体論─菊と星条旗─』(集英社新書)。

日時:2020年2月1日(土) 開場13:30 開会14:00
予約:必要(席に限りがあるため、参加希望者は下記のフォームよりお申し込み下さい)
会費:1000円(学生の方、障がいのある方およびその介助者は無料です)
会場:あすか会議室神田小川町402号室(東京都千代田区神田小川町2-1-7 日本地所第7ビル4F)

地下鉄

都営新宿線 小川町駅 B7出口すぐ
丸ノ内線 淡路町駅 B7出口すぐ
千代田線 新御茶ノ水駅 B7出口すぐ

JR

山手線 神田駅 徒歩8分
中央線・総武線 御茶ノ水駅 徒歩8分

※1Fに「東京厨房」という飲食店が入居しているビルの4Fです。「東京厨房」を正面にしてビル左側の路地に入って少し進むと、右手側に「日本地所第7ビル」と記されたビルの入口がありますので、エレベーターで4Fまでお上がり下さい。

「東京厨房」を正面に向いて、左側の路地に入る
路地を少し進むと、右手側にビルの入口がある

申し込みフォーム

お申し込み後、こちらから申し込み完了メールを送信しますが、時折そのメールが届かないとのお問い合わせをいただきます。

ドメイン指定をされていると迷惑メールのフォルダに分類されたり、送信そのものが出来ない場合がありますので、ご確認下さい。

万一、申し込み完了メールが届かない場合でも、申し込み手続きはこちらで完了しておりますので、当日そのままお越し下さい。

第8回 『国体論』と沖縄・アジア 2020年2月1日 参加申し込み
※↑チェック必須

※携帯キャリアのメールアドレスをご使用の場合は、@kaeizyuku.comからのメールが受信出来るよう設定の上、お申込みください。

令和元年12月17日 山武郡市広域行政組合消防本部「レッド・バスティオン」見学

 千葉県の山武郡市広域行政組合消防本部に配備されている中型水陸両用車「レッド・バスティオン」を見学しました。

レッド・バスティオン

 レッド・バスティオンはキャタピラを備えた救助車両で荒れ地や泥濘地でも走行できるとともに、スクリューを備え水上も航行できる中型の水陸両用車輛です。今年10月の千葉県での豪雨などでレッド・バスティオンが出動し、救助救援活動にあたったそうです。

 似たような救助車両で「レッド・サラマンダー」というものがありますが、レッド・バスティオンはレッド・サラマンダーのいわば小型版です。バスティオンとはすなわち「砦」の意味で、救助救援の「最後の砦」となる決意と覚悟を表現して名付けられたそうです。

 レッド・バスティオンは総務省消防庁が購入し、現在、山武郡市広域行政組合消防本部と徳島県の板野東部消防組合消防本部に配備されています。

車両後部のスクリュー

 山武郡市広域行政組合消防本部を訪問すれば誰でも無料で見学ができ、運が良ければ乗車することも可能です。

 人々の暮らしを脅かすオスプレイやF35Bなど米国製の兵器よりも、こうした人の命を救う車両・器具に多くの予算をつけて購入・配備するべきではないでしょうか。

花瑛塾を取材した映画監督新田義貴さんの短編動画がYahoo! JAPAN クリエイターズプログラムで公開されました

 花瑛塾々長仲村之菊を取材した映画監督新田義貴さんによる短編ドキュメンタリー動画「私は日本を誇りに思う 右翼女性活動家はなぜ沖縄へ通うのか」がYahoo! JAPAN クリエイターズプログラムで公開されました。

 他にもYahoo! JAPAN クリエイターズプログラムでは、新田監督の短編動画として沖縄の米軍演習場「北部訓練場」返還地の環境問題や米軍の演習の実情を告発しているアキノ隊員こと宮城秋乃さんを取材した「闘うチョウ研究者 米軍基地から沖縄の森の生き物を守る」や、内戦下のシリアでISにより殺害されたジャーナリスト後藤健二さんの遺骨を収容するため殺害現場や遺体遺棄現場の特定に奔走する報道写真家の遠藤正雄さんを取材した「骨を拾う 後藤健二さん最期の地を探して」なども公開されています。

 どうぞご視聴下さい。

短編動画「私は日本を誇りに思う 右翼女性活動家はなぜ沖縄へ通うのか」

令和元年12月8日 大東亜戦争開戦の意義を問い直す

 花瑛塾行動隊は対英米開戦から78年の8日、先の大戦に関連する戦争遺跡を訪れました。

 まず最初に、開戦を告げる暗号「ニイタカヤマノボレ1208」を海軍の全艦隊に発信した海軍東京無線電信所船橋送信所跡(千葉県船橋市)を見学しました。

送信所跡を示すモニュメント

 送信所は、現在ではもはや当時の面影はなく、送信所があったことを示すモニュメントとプレートがあるだけですが、環状に通信塔が配置されていたため、空中写真で見ると地形にその名残があります。また関東大震災時時、「朝鮮人が暴動」といった流言飛語を各地に発信してしまった歴史的施設でもあります。

 その後、軍の食糧の開発、製造、保管などを行う施設である陸軍糧秣本廠跡(東京都江東区)を見学しました。

墨田川から越中島を望む

 敗戦時、軍はこの糧秣本廠付近に流れる運河の川底に金塊54トン、プラチナ13トンなど、現在の価値で数兆円とも換算される貴金属を隠匿し、戦後、GHQによって摘発、没収されました。

 78年前の開戦の数年後には国民は焼け出され、何もかも失いましたが、軍はなお巨額の財産を隠匿し、我がものにしようとしていたのです。この事実は、開戦の日の今日こそ振り返る必要があります。

 昭和16年(1941)12月8日未明、日本陸軍第25軍はマレーシア・コタバルのサバク海岸に上陸し、英軍と交戦状態に突入しました。その数時間後、日本海軍機動部隊はハワイ真珠湾の米艦隊を攻撃しました。また上海の租界の接収、香港への突入、フィリピン攻略の開始などの軍事作戦も始まり、先行する中国戦線も含め、ここに英米蘭などの国と「大東亜戦争」と呼称される戦争が開戦されました。なお、この戦争については、最近では歴史学的な立場から「アジア太平洋戦争」などと称される場合もあります。

花瑛塾亜細亜倶楽部として慰霊祭をおこなった日本軍上陸の地コタバル・サバク海岸

 開戦の背景には、昭和12年からの日中戦争の行き詰まりと、対日禁輸政策など日米交渉の難航といった危機的情勢があります。東南アジアへの進出により状況の打開をはかった日本ですが、いっそうの世界的孤立を強めていきました。同時に、当時の世界情勢はドイツがフランスを降伏させ、英国およびソ連と戦争状態にあるなど急展開しており、日本は急速に対英米開戦に傾いていったのです。

 対英米開戦時の日本の軍事戦略と終戦構想は、東南アジア一帯を勢力圏とし、重要資源を確保し、ドイツがソ連と英国を降伏させた上で、米国と講和を締結するというものでした。しかし、既にドイツは対ソ戦で敗走を始めており、開戦前において日本の軍事戦略と終戦構想は崩壊していたともいえます。

送信所の空中写真 環状の道路が昔の送信塔の名残といわれる

 それでも開戦された戦争の初期、日本軍は東南アジア各地に進出し、軍政を展開しました。軍政の第一目標は石油などの重要資源の確保と日本への輸送であり、第二目標は現地に展開する日本軍のための物資獲得でした。これにより現地住民の生活や経済に大きな負担をもたらしました。

 日本の終戦構想が東南アジアにおける勢力確保であり、中国戦線のために蒋介石率いる国民党を援助する援蒋ルート遮断が重要戦略に位置づけられるなど、コタバル上陸作戦が真珠湾攻撃に先立つこともふくめ、この戦争は「アジアの戦争」であったということができます。

 事実、日本は昭和18年に大東亜会議を開催し、大東亜共同宣言を発出し、アジア解放とアジア諸国の互恵・平等を宣言します。またそこで、日本を盟主としアジアを従属させる意味合いの強かった「大東亜共栄圏」構想を放棄し、「大東亜同盟」構想ともいうべきアジア諸国の対等・独立を目指します。

 大東亜共同宣言は、連合国による大西洋憲章に対抗する意味もあり、フィリピンやビルマの独立を認めるなど、内容そのものは先進的な価値を有しています。しかしインドネシアの民族主義者スカルノなどは会議に招請されず、また日本はジャワやセレベスといった戦略的要所は日本領とするなど、問題も存在していました。

糧秣本廠付近の運河の川底から発見された金塊:NHKスペシャル「戦後ゼロ年 東京ブラックホール」より

 ソ連の反撃とドイツの敗走という戦略的の崩壊とともに、真珠湾攻撃では日本海軍潜水艦部隊が何らの成果をあげられず、マレー沖海戦では航空作戦を用い英軍の戦艦を撃沈させながらも、日本軍攻撃機の被弾率が40パーセントを超えるなど、連合軍の防空能力の強さが示され、戦術的な失敗が存在していました。既に開戦前後において、戦局には暗雲が立ち込めていたのです。しかし開戦初期の大勝利のなかで、こうした戦術的失敗は真剣に検討されず、昭和17年6月のミッドウェー海戦での大敗北以降、情勢打開の見込みなき戦いが繰り返されていきます。

 戦況の悪化は、軍政下のアジアにも大きな被害をもたらしました。重要資源を日本へ運ぶ輸送船は、ことごとく連合軍によって撃沈され、アジア諸国の食料や生活用品などの輸送にも支障をきたし、食糧難や生活難が発生します。そして連合軍の逆上陸に備え、軍政下の地域の経済などは全て軍事動員されていきました。こうした日本軍政の反発のなかで、抗日ゲリラ闘争が高まり、独立運動が展開されるなどしました。

 このように先の大戦を対英米開戦というだけでなくアジアの視点から振り返った時、多くの人々の悲劇と痛苦を感じずにはいられません。奇しくもこの日、アジアの人々を傷つけ苦しめている技能実習生制度の問題点を曖昧にしたまま改正入管法が成立しました。今日という日にあらためて私たちの国の「アジアへの視線」を問う必要があるのではないでしょうか。