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平良勝保「沖縄県における自治体史編集の歴史と現状」に触れて

 沖縄県では県史や市町村史など自治体史(地域史)の編集・発行が盛んである。自治体史では古琉球以来の長い歴史、様々な民俗行事や信仰、各国との交流などの資史料が収集され、通史が叙述されている。つい昨年3月も『沖縄県史各論編6 沖縄戦』(新県史)が刊行されたがすぐに完売し、増刷希望のアンケートが行われるなど注目を集めている。

 そのようななか、今月号の『日本歴史』(第836号、2018年1月)は「自治体史を使いこなす」との特集を組んでいるが、同誌に掲載されている平良勝保「沖縄県における自治体史編集の歴史と現状」は、沖縄県地域史協議会の発足という琉球・沖縄史研究の動向、「名護テーゼ・浦添モデル」といわれる自治体史編集・発行の歴史、「安良城ショック」など歴史学者の研究方針の深まりなど、沖縄県内の各自治体史の編集・発行に関するエピソードや歴史、外交史料の存在など特徴的な史料群、論文執筆者の平良氏も関わる『宮古島市史』などを紹介している。

 「名護テーゼ」とは、沖縄県地域史協議会初代代表の真栄里泰山の回顧によれば、「沖縄らしい地域づくりをするための基礎になる資料をまとめるのが地域史の仕事」という名護市史事務局・中村誠司の提言を命名したものであり、それを具体的に実践したのが浦添での自治体史編纂であった。徹底的な資史料収集と分析、それによる通史叙述は「浦添モデル」とされ、全国の自治体史編纂に踏襲されていった。

 「安良城ショック」とは歴史家・高良倉吉の言葉だそうだ。「琉球・沖縄史を日本史にどう位置づけて考えるべきか」という沖縄大学学長も務めた歴史家・安良城盛昭の日本史研究と琉球・沖縄史研究への問いかけが、「内部に沿って精緻化すること」「歴史像をアジアという視野をふまえてとらえる」という動きにつながったことを「安良城ショック」と高良は表現したのである。

 沖縄自治体史では、新県史『各論編8 女性』において女性史という歴史学では新しい切り口も試みられている。上述の『各論編6 沖縄戦』では、戦争トラウマや不発弾といった民衆の視点に立った新しい項目も取り上げられている。また、琉球王国の外交文書などの史料は、これまで相当の研究蓄積を有する琉球王国史研究にも新しい視点を提供してくれるに違いない。これからの沖縄自治体史の編纂事業の発展を期待したい。