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軍と兵士ー日米共通する「軍」による命の軽視 吉田裕著『日本軍兵士ーアジア・太平洋戦争の現実』(中公新書)を振り返りつつ

 昨年はMV-22オスプレイの緊急着陸やCH-53Eの炎上・大破事故など、在日アメリカ軍機の故障・事故・トラブルが多発した。また今年に入って既に3件のアメリカ軍ヘリの不時着が発生している。防衛省の調査によると、昨年のアメリカ軍機の故障・事故・トラブル件数は25件を数え、前年より倍増しているとのことだ。防衛省の調査は、アメリカ太平洋軍ハリス司令官による「事故は減少傾向にある。2016年に30件以上の事故があったが、17年は23~25件だった。事故の減少はアメリカ軍が安全第一に運用している証しだ」との発言を受けて実施されたもの。アメリカ軍の甘い危機認識と事実の誤認が浮き彫りとなった。

 アメリカ軍機の事故が発生すれば、国内における在日アメリカ軍基地の約7割が集中する沖縄の人々が巻き込まれ、被害に遭う恐れが高い。もちろん軍用機乗組員のアメリカ軍兵士が犠牲になることは目に見えている。アメリカ軍は沖縄の人々はもちろん、アメリカ軍兵士の生命まで軽視しているといわざるをえない。

 アメリカ軍は志願兵制度を採用しているが、兵士の一部は経済的に困窮した学生や兵士となり国籍の取得を目指す移民など、やむをえず入隊する若者も多い。そうした若者に危険な任務を強いるアメリカ軍。さらに除隊後に精神を病む者、アルコール中毒となる者、社会に復帰できず職に就けず路上生活者となる者も多い。兵士の命は「軍」にとってあまりに軽いのである。

 ことはアメリカ軍兵士に限らない。吉田裕『日本軍兵士―アジア・太平洋戦争の現実』(中公新書、2017年)は、軍上層部によって劣悪な衛生状態、無計画な作戦指導による飢餓、特攻による死、自決、軍内部でのリンチなど日本軍兵士が軍に強いられた壮絶な状況の実態を、数々の史料に基づき明るみにしている。吉田は「兵隊は哀しいなあ」という元日本軍兵士の呟きが頭を離れないと記している。軍上層部に翻弄されるだけの運命をいうこの言葉に、日本軍兵士の悲惨な実像が写り込んでいるといえる。

 軍国主義の再来といった文脈で「軍靴の音が聞こえる」という表現がされるが、先の大戦で「軍靴の音」は聞こえたのだろうか。吉田前掲書によると、物資不足により日本軍は満足な軍靴の配給・修理ができず、鉄を使わない軍靴や鮫皮で製造した軍靴など軍靴の粗悪化も進んでいた。部隊によっては草履や草鞋をはいた兵士、足に布を巻いただけの兵士、はては裸足の兵士までおり、さらに軍服に至っては民衆から奪った服を身に着け、軍帽はなく鉢巻をしているだけの兵士もおり、「これが皇軍かと思わせるような恰好をしていた」との衛生兵の回顧録まである。靴もない服もないのが戦場の日本軍兵士の実像なのだ。

 そのような「哀しき日本軍兵士」も、民衆にとってみれば、丸山眞男の指摘を待つまでもなく、戦場で罪なき人々を殺め、物資を奪い、尊厳を辱め、生活を破壊する存在であった。陸軍内務班で古参兵に骨の髄までしごかれ、リンチを受け続ける初年兵であっても、民衆からすれば兵士は銃をもった暴力の行使者であり恐怖の対象でしかない。

 「軍」は敵兵はおろか自軍の兵士も殺し、そして戦争に関係のない民衆も殺す。「軍」とはいったい何を守る存在だというのか。沖縄に集中するアメリカ軍基地とアメリカ軍機の事故、そして日本軍兵士の実像から考えたい。