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平成30年6月2日 在日韓人歴史資料館 第108回土曜セミナー「在日朝鮮人留学生の民族運動」(講師:小野容照氏)

 在日韓人歴史資料館第108回土曜セミナーを聴講しました。講師は小野容照氏(九州大学)、テーマは「在日朝鮮人留学生の民族運動」として、戦前の在日朝鮮人留学生の民族運動・独立運動について解説をいただきました。

 日朝修好条規(1876年)から韓国併合(1910年)、そして2・8独立宣言や3・1独立運動(1919年)までにおいて、福沢諭吉の斡旋などもあり、朝鮮半島から多くの留学生が日本内地を訪れ、早稲田大学や慶応大学など各大学で学びました。

 彼ら留学生が日本に留学する理由は様々ありますが、大きな理由としては朝鮮半島では日本統治の下で高等教育が充分に行われなかったことと、日本側は朝鮮の近代化と情報獲得などのため留学生を招いたということがあげられます。

 そうした在日朝鮮人留学生は、特に韓国併合までの間、「愛国啓蒙運動」といわれる救国運動を展開し、日本から近代文明を学び、朝鮮半島に導入し、朝鮮の実力を蓄えた後の国権回復を目指しました。さらに韓国併合後の武断政治の下では、日本国内で出版活動やスポーツを軸とした民族運動・独立運動を展開するとともに、「対華二十一ヵ条の要求」(1915年)以降の中国は「第2の朝鮮」ともいわれており、朝鮮人留学生は中国人活動家とも結び、独立運動を展開しました。

 第1次大戦後のパリ講和会議(1918年)では「民族自決」が議題となり、朝鮮民族の独立・自決への期待感から李承晩や呂運享が講和会議参加を画策しましたが、ここにも中国人活動家の支援が存在します。なお、上海でパリ講和会議への参加を目指した呂運享は、戦後の神社本庁設立に関わり、神社新報で健筆を振るった葦津珍彦とも交流があった人物です。

 また、朝鮮人留学生が発行した雑誌『大韓興学報』の印刷は現在の大日本印刷(DNP)が行いましたが、韓国併合により同誌は廃刊となりました。その後、福音印刷合資会社による印刷で留学生による雑誌『学之光』が発行されますが、この福音印刷合資会社はNHKドラマ「花子とアン」に登場する村岡平吉による「村岡印刷」のモデルとなっています。

 福音印刷は文字通り聖書の印刷のため各国の言語の活字を所有しており、そのためハングルでの留学生雑誌の印刷ができたといわれており、村岡自身も息子たちをミッション系の明治学院大学に入学させ、さらに朝鮮人留学生も明治学院大学にやってくるなど、様々な交流がありました。

 1919年2・8独立宣言や3・1独立運動から来年で100年。彼ら在日朝鮮人留学生の動向を知るなかで、日本の朝鮮半島政策の過去を振り返り、今後の良好な日朝関係構築につなげていきたいと思います。

講師の小野容照氏(スクリーンに映るのは朝鮮人留学生による初の雑誌『親睦会会報』)