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辺野古新基地建設における沖縄県による公有水面埋立承認撤回への政府の「対抗措置」を読み解くー翁長県政時における政府との攻防を事例にー

 昨日10月17日、防衛省・沖縄防衛局は辺野古新基地建設に関し、沖縄県による公有水面埋立承認の撤回について、石井啓一国土交通相に行政不服審査法に基づく審査を請求するとともに、撤回の執行停止を申し立てた。新基地建設に関する政府による沖縄県への「対抗措置」であり、沖縄県知事選挙で示された圧倒的民意を顧みない政府の暴挙は許されず、「対立と分断」を引き起こす政府の対応を糾弾する。

 国交省は比較的短期間のうちに防衛省の申し立てを認め、早ければ数週間以内に工事が再開される見通しだ。政府の「対抗措置」なるものは、そもそも行政の措置に関する私人の救済を念頭にしている行政不服審査法を、防衛省が私人になりすまして「仲間」である国交省に不服を申し立てる「自作自演」「猿芝居」であり、法の濫用といわざるをえない。

 こうした「対抗措置」は、すでに翁長県政時にも政府がおこなってきた「常套手段」でもある。翁長雄志前沖縄県知事は平成27年(2015)10月、仲井真弘多元知事による公有水面埋立承認を取消したが、政府は同じように行政不服審査法に基づき石井国交相に申し立てをおこない、最終的には沖縄県と政府の訴訟となった。今回の「対抗措置」により、沖縄県と政府は前回同様訴訟になることであろう。前回の訴訟においては、沖縄県と政府は一時的に和解したが、政府は「和解破り」をおこない工事を強行した。今回も最終的には訴訟となる見通しのため、前回の公有水面埋立承認取消しに関する沖縄県と政府の攻防を確認することにより、今回の事態を把握し今後の対応について検討したい。

翁長県政時における公有水面埋立承認取消しに関する県と国の攻防

 平成25年(2013)12月、仲井真元沖縄県知事は、公有水面埋立法に基づく沖縄防衛局による辺野古新基地建設の埋立工事の許可申請を承認した。しかし翁長前知事がこの承認を取消したため、国は沖縄県の取消しを違法として提訴、平成28年(2016)12月20日、最高裁は沖縄県の承認取消しを違法とした福岡高裁那覇支部判決を支持、沖縄県の上告を退けた。国はこれを受けて辺野古新基地建設を再開するわけだが、この司法判断は憲法の地方自治規定と地方自治法を踏みにじり、かつ沖縄の基地負担を永続化させるものであり、許されざるものである。

 本件違法確認訴訟とこれに関連する代執行訴訟、そしてその訴訟の和解あるいは行政不服審査法に基づく措置など、沖縄県と国の一連の訴訟の経緯は錯綜しており、いささか分かりづらい。当事者も沖縄県や沖縄防衛局あるいは国土交通省または裁判所や国地方係争処理委員会など多岐に渡る。以下、時系列的に国と沖縄県の紛争を確認したい。

平成25年(2013)

  • 12月27日 防衛省・沖縄防衛局は名護市辺野古での新基地建設のための埋立工事許可を申請し、沖縄県(仲井真前知事)が承認。

平成27年(2015)

  • 10月13日 翁長前知事は仲井真元知事による埋立承認には瑕疵があるとしてこれを取消す。
  • 同月14日 防衛省は沖縄県の措置を不服として石井国交相に行政不服審査法に基づく審査請求と承認取消しの執行停止を申し立てる。
  • 同月27日 石井国交相は承認取消しの執行停止を発表。さらに閣議において、地方自治法に基づき沖縄県に代わり埋立承認の取消しを取消す代執行の手続きに着手。
  • 11月2日 沖縄県は執行停止を不服として国地方係争処理委員会へ審査を申し出る。
  • 同月9日 石井国交相は沖縄県に取消しを取消すよう是正指示を出すが、沖縄県はこれを拒否。
  • 同月17日 国交省は承認取消しを違法として、取消しを取消す代執行訴訟を福岡高裁那覇支部に提訴。

平成28年(2016)

  • 3月4日 代執行訴訟について沖縄県と国の和解成立。
  • 同月7日 石井国交相は埋立承認取消しを違法として、取消しを取消すようあらためて沖縄県に是正指示を出す。
  • 同月23日 沖縄県は石井国交相の是正指示について国地方係争処理委員会に審査を申し出る。
  • 6月17日 国地方係争処理委員会は是正指示の違法性を判断せず、沖縄県と国に協議を求める。
  • 同月24日 翁長前知事は安倍首相に文書で協議を求める。
  • 7月22日 是正指示に従わないのは違法として国が沖縄県を相手に違法確認訴訟を提起。
  • 9月16日 福岡高裁那覇支部が埋立承認取消しは違法と判決。
  • 12月20日 最高裁が沖縄県の上告棄却。
  • 同月26日 翁長前知事は埋立承認取消しを取消す。
  • 同月27日 防衛省・沖縄防衛局は辺野古新基地建設の工事再開。

平成29年(2017)

  • 4月25日 辺野古新基地建設の護岸工事がはじまる。
  • 7月24日 沖縄県が岩礁破砕差止訴訟を提起。

平成30年(2018)

  • 3月13日 那覇地裁は沖縄県による岩礁破砕差止の提訴を却下。
  • 6月12日 政府は沖縄県に8月17日以降に土砂投入をおこなうと通知。
  • 7月27日 翁長前知事は埋立承認撤回を発表。
  • 8月8日 翁長前知事逝去。
  • 同月31日 沖縄県は埋立承認を撤回。
  • 9月30日 沖縄県知事選挙でデニー氏が当選。
  • 10月12日 デニー知事と安倍首相が面談。
  • 同月17日 防衛省は国交省に埋立承認撤回の執行停止と審査を申出る。

 平成28年12月20日に最高裁が沖縄県の上告を退けた訴訟は、同年3月4日に和解が成立した代執行訴訟ではなく、代執行訴訟の和解成立後に沖縄県が国の是正指示に従わないのは不作為の違法であるとして、国が福岡高裁那覇支部に提訴した地方自治法に基づく違法確認訴訟である。

 代執行訴訟の和解条項においては、国の是正指示に関しては、沖縄県が国地方係争処理委員会の審査を経て、沖縄県が国を相手に訴訟を提起すると取り決められていたが、国地方係争処理委員会が法的判断を避け、両者の協議を求めたため、沖縄県は提訴を控え、国に協議を申し出たのである。しかし国は沖縄県が是正指示に従わないのは違法として提訴したのであり、その訴訟の結果が平成28年9月16日の福岡高裁那覇支部判決と最高裁判決である。

 しかし違法確認訴訟はあくまで文字通り違法の確認であり、執行力を伴うものではない。同時に、国が沖縄県を相手として違法確認訴訟を起こすことは、和解条項に反するものである。その意味で沖縄県は和解条項に従う必要がないともいえる。

司法判断の是非と今後の見通し

 違法確認訴訟に関する最高裁判決では、福岡高裁那覇支部の判決に上告した沖縄県の意見を聞く弁論が開かれなかった。ただでさえ地方自治法に基づく違法確認訴訟は2審制を採用し、主張・審理の機会が少ない。事件の重大性から考えても、最高裁が弁論を開かなかったことは許しがたい。本来であれば大法廷での審理があってもいいものであるが、小法廷において弁論を開くことのないまま判決が確定してしまった。

 そもそも福岡高裁那覇支部判決は、仲井真元知事の埋立工事承認に瑕疵はないとし、翁長前知事の埋立工事承認の取消しを違法とするものである。そして、その結論を導くため、在日米軍の沖縄駐留は妥当であるとし、沖縄の基地負担を認容している。さらに辺野古新基地建設により基地負担が軽減されるなどと、政府の主張を丸のみするものとなっている。

 同時に、福岡高裁那覇支部判決は、国の統治行為のためには、地方の意見を聞いていれば物事が前に進まないから、国の判断に重大な不合理のない限り、地方は国の要求を唯々諾々と聞くべきという内容であったことはしっかりと確認したい。これは憲法の地方自治規定や国と地方との対等性を明確にした地方自治法を踏みにじるものであり、沖縄のみならず原発問題などを抱える全ての地方自治体を委縮させる恐るべき判決である。

 最高裁判決では、国と地方のあり方や辺野古新基地建設の妥当性までには踏み込むことはなかったが、その骨子においては福岡高裁那覇支部判決を踏襲するものであり、最高裁判決を認めることはできない。そして最高裁判決を「天裕」とばかりに辺野古新基地建設の工事の再開をはかる国の対応も許すことはできない。

 翁長前知事は仲井真元知事による埋立承認の取消しを取消したが、今回の承認撤回は大浦湾における軟弱地盤の存在など新たな材料をもっての承認「撤回」である。沖縄県側にも相当な覚悟があり、前回の国との攻防を踏まえての準備もあるだろう。デニー知事を支える圧倒的な民意も存在する。

 私たちが行政上の手続きや法的なやり取りに直接関与することはできないが、前回の県と政府の攻防を確認し、政府のやり口を知ることは、今回の事態を冷静に把握することにつながり、新たな一手を見つけ出すことにもなる。そして何より、前回の攻防を知ることは、政府は法的根拠に乏しい強硬な措置でしか辺野古新基地建設をすすめることができないということを明白にさせる。しかし弾圧は抵抗を呼び、抵抗は友を呼ぶのだ。デニー知事を支え、来たる那覇市長選挙、そして来年4月の統一地方選挙と参院選挙で勝利し、世論の力で安倍政権を追いつめ、新基地建設を断念させよう。