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平成30年11月10日 在日韓人歴史資料館第113回土曜セミナー

 在日韓人歴史資料館(東京・港区)で開催された第113回土曜セミナーに参加しました。「三韓征伐─古代朝鮮支配『言説』の消長─」とのテーマで、同資料館館長で早稲田大学教授の李成市氏よりお話しを伺いました。

 『古事記』『日本書紀』など記紀神話に語られる神功皇后のいわゆる「三韓征伐」譚は、記紀の編纂当時の日本が置かれていた対外関係─特に新羅国を念頭においた─を背景に生成していった神話であり、朝鮮半島出兵や任那日本府の存在などは歴史的実証に耐えうる性格のものではありませんが、一方でこうした古代日本の朝鮮支配の言説は、いわゆる元寇・蒙古襲来といわれる異国合戦や豊臣秀吉による朝鮮出兵、あるいは幕末・維新期や明治新政府の征韓論、そして韓国併合など、日本の対外関係の進展に伴い変容しながら、その基底に存在し続けました。

 例えば中世においては、神功皇后の「三韓征伐」譚は当時の神国思想の展開と相まって『八幡愚童訓』『太平記』などにおいて様々に語られ、神功皇后は皇后であっても「女帝」として評価され、さらに天照大神と同一視する「神」としての認識も高まりました。また自然と人々の間には隣国に対する優越した意識も生まれていきました。

 近世においても錦絵などに「三韓征伐」が描かれ、古代日本の朝鮮支配の「事実」が視覚的に庶民へ広まっていきました。そのため、朝鮮から江戸幕府へ派遣された朝鮮通信使は、日本側の知識人の一部では尊敬をもって迎えられたものの、庶民は朝鮮通信使一行から「三韓征伐」譚を想起し、古代からいまにいたるまでこのような「服属儀礼」が行われてきたのだと誤解していたといわれています。

 近代においてもこうした認識は基本的に改まらず、戦前の歴史学者も韓国併合にあたって「三韓征伐」譚を想起し、古代日本の朝鮮支配という「事実」の再現を見ていたのであり、昨今のいわゆる「徴用工」問題における河野太郎外務大臣の韓国を恫喝するような発言の背景にも、こうした古典的で自国優越的な古代朝鮮支配「言説」を読み取ることができます。

お話しされる李先生と聴講者