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第23回安倍・プーチン日ロ首脳会談開催、昭和31年日ソ共同宣言を基礎に平和条約締結交渉加速へ─「外交の安倍」が功に焦ったか─

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 ASEAN関連首脳会談のためシンガポールを訪れている安倍晋三首相は14日午後、ロシア・プーチン大統領と首脳会談を行った。安倍首相とプーチン大統領による首脳会談は、今回を含め23回目となる。

14日午後、シンガポールで会談する日ロ首脳【毎日新聞

 今回の首脳会談は、ウラジオストクでおこなわれた9月の東方経済フォーラムの席上、プーチン大統領が年末までに領土返還などの前提条件なしの条約締結を提案し、その場にいた安倍首相が何らの反応を示すことがなかったため、国内的に大きな問題となったこともあり、非常に注目されていた。会談の結果、日ロ両首脳は鳩山一郎内閣が昭和31年(1956)にソ連と締結した日ソ共同宣言を基礎とし、平和条約締結交渉を加速させる方針で一致したと報じられている。

 日ソ共同宣言には、平和条約の締結後、色丹島と歯舞諸島を日本側に引き渡すと明記されているが、北方四島のうり国後島および択捉島、あるいは他の千島列島や南樺太の帰属・返還については何らの言及がない。これまでプーチン大統領は日ソ共同宣言について「いまだ有効」との見解を示しており、政府・自民党の従前の北方四島返還交渉と大きく異なる「二島返還」で日ロ交渉が加速する可能性がある。

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 日ソ共同宣言では、日ソ両国の国交回復、ソ連による日本の国連加盟の支持、戦犯の引き渡し、通商交渉の開始や漁業での協力など、領土問題以外での懸案事項の解決もはかられており、その点は評価するべきものと考える。当時、ソ連の対日参戦やシベリア抑留問題、あるいは共産主義の脅威や東西冷戦の激化のなかで、対ソ外交の進展は国内的な感情にも配慮する必要があり、難しいものであった。そうしたなかでの鳩山内閣による対ソ交渉の開始と共同宣言締結は、戦後日本外交史上、大きな意味があるといえる。

 一方で、繰り返しとなるが、日ソ共同宣言は最大の懸案事項である北方領土問題について、平和条約締結後の色丹島と歯舞諸島の引き渡しを明記するものの、その他の領土の帰属・返還について言及がない。戦後、領土問題を中心に日ソ・日ロ交渉は何らの進展がなかったこともあり、日ソ・日ロ交渉の原点でもある日ソ共同宣言に回帰して交渉をやり直すことはアプローチの一つとして有用でもあろうが、それでは昭和31年に時計の針を戻しただけでもあり、領土問題の根本的な解決にはならない。

 領土返還・国境画定交渉における日本政府の主張は、国後島・択捉島・色丹島・歯舞諸島の北方四島は、北海道の一部であるから返還せよという主張であったが、国後島・択捉島は実際には千島列島の一部であり、そのことは日本政府も認めている。そして日本政府はサンフランシスコ条約で千島列島の主権を放棄しているのである。つまり日本政府の領土返還要求に根拠はなく、ロシア・旧ソ連が反発し領土返還・国境画定交渉が座礁したのも無理はないことだ。

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 花瑛塾はこれまで、日本とロシアが以下の4つの点を確認することにより、新たなアプローチで北方問題に取り組む必要があることを訴えてきた。

  1. 旧ソ連の対日参戦は国際法違反の侵略行為であり、これにもとづく領土占拠の無効。
  2. 旧ソ連の対日参戦は第2次世界大戦の連合国の基本方針である「領土不拡大」に反し、これを追認するサンフランシスコ条約の領土条項の無効。
  3. 過去の日本政府の不当な領土返還要求の撤回。
  4. 旧ソ連の対日参戦を教唆したのはアメリカであり、過去の領土返還・国境画定交渉に際し、陰に陽に介入をし続け、日ソ・日ロの友好を妨害し続けたのもアメリカであって、今後の日ロ交渉へのアメリカの干渉の排除。

 これらの点を踏まえた上で、国際法上もっとも適法であった状態、すなわち1945年8月8日の状態へ国境線をロールバックし、日本の主権を確認した上で、70年以上もの旧ソ連・ロシアの統治という歴史の重みを理解し、そこにおいて築かれた人々の暮らしや文化を尊重し、北方地域の現状を根底から覆すことのない、新たな領土返還・国境画定交渉のあり方を模索する必要があるのではないだろうか。

 江戸幕府と帝政ロシアの日魯和親条約以来、樺太・千島交換条約やポーツマス条約と、国際法にのっとり国境線は幾度も変更された。従って日ロともに、いまにおいて国境線の変更をためらう理由はない。さらに日魯和親条約における樺太島雑居地化など、日本とロシアは柔軟な北方政策を展開した。こうした先人の知恵に学び、過去の経緯に固執して北方政策の歴史的本質を見失うことなく、日ロ関係を展開していく必要があるはずである。

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 同時に、領土返還・国境画定交渉とは切り離した上で、北方領土元島民の故郷への自由な往来や交流、北方地域の先住民たるアイヌの人々の権利擁護を日ロ両国で支援するなど、国家に翻弄された元島民や先住民のために、北方地域に責任を持つ国家である日ロが連携して果たすべき役割は数多い。

 その上で、二島返還論で日ロが妥結するのであれば、政府・自民党はこれまでの四島返還を主軸とする日ソ・日ロ外交とは一体何だったのか、総括をする必要がある。23回も繰り返してきた日ロ首脳会談。いよいよ結果を出す段階に入らなければならないが、自称「外交の安倍」がこれまで外交的成果をあげられなかったため、功に焦って事態の本質を見失い、取り返しのつかないことになることを強く警戒するものである。両国首脳の果たすべき責任は重いことを自覚して欲しい。