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米国大統領選挙の結果とバイデン次期大統領について(令和2年11月8日)

米国大統領選挙、バイデン候補が制す

 米国大統領選挙の投開票がおこなわれ、米民主党ジョー・バイデン候補が選挙人の過半数を得ることを確実にし、勝利演説をおこなった。今後、トランプ大統領による訴訟や政権移行の妨害なども考えられるが、順当にいけば来年1月にはバイデン候補が次期米国大統領に就任する予定である。

次期米国大統領に就任する予定のバイデン(左):CNNより

 トランプ大統領はこれまで様々なフェイクニュースを発信し、米国内の世論を攪乱し続けた。今回の大統領選挙においても、フェイクニュースの発信をはじめ常軌を逸した数々の振舞いをし、米国の民主主義をぐらつかせた。それ以外にもトランプ大統領による人種差別、民族差別、移民差別の言動や政策はひどいものがあり、米国社会のみならず世界に差別や偏見、分断を撒き散らした。

 目下のコロナ禍でもトランプ大統領の対応は非難を浴びている。トランプ大統領はコロナの危険性を軽視し、マスクの着用やいわゆる「3密」を避けるといったごく基本的な対応すらしなかった。そしてロックダウンなど厳しい対応をしたニューヨークのクオモ市長と対立し、「間も無くワクチンが手に入る」、「コロナの感染拡大は中国のせいだ」などといったフェイクニュースを発信する一方で、全米での爆発的感染を防ぐこともできなかった。今や米国は1日10万人単位で感染者が増えているが、その一因に感染症対策をしようとしないトランプ大統領の選挙集会があるともいわれている。

 またトランプ大統領の外交は危険極まりないものであった。対中国外交では、中国を一方的に敵視し、対立をエスカレートさせた。中国の覇権主義・大国主義的振る舞いは許し難いが、トランプ大統領の対中国外交はとにかく敵対に次ぐ敵対を繰り返し、出口なきゲームとなっていった。対イラン外交では、オバマ前大統領が実現したイラン核合意を一方的に離脱し、イランへの制裁を発動したり、イラン革命防衛隊幹部を暗殺するなど横暴を振るった。対キューバ外交では、これもオバマ前大統領が進めた緊張緩和の流れを巻き戻し、キューバへの制裁を強化した。対北朝鮮外交では、金正恩委員長との首脳会談を実現し、核開発やミサイル発射など北朝鮮の軍事的挑発を抑え込んだものの、過去にはトランプ大統領自身が北朝鮮に向けて危険な軍事的威嚇を繰り返した。

 それ以外にもパリ協定からの離脱や原子力推進など、地球環境の面でもトランプ大統領の政策を肯定することはできない。またニューヨークタイムズが報じたトランプ大統領の脱税疑惑や巨額の債務などスキャンダルも含め、今日まで4年間のトランプ大統領の振る舞いや政策を考えれば、米国にとっても世界にとっても大統領に再選させ、もう4年米国のリーダーを任せるべき人物でないことは明らかであろう。

 無論、トランプ大統領を支持した多くの米国の有権者の判断も尊重しなければならず、彼らがトランプ大統領に何を期待したのかといったことも考えるべきだが、彼らのトランプ大統領への期待が人種差別や排外主義のようなものであれば、それは実現してはならないものであり、経済的苦境からの脱却であれば、それはトランプ大統領を再選させても実現しないだろう。

 他国の民主主義、他国の有権者の判断、民意について軽々に論評し、その賛否を論じることはしたくないが、客観的に見ても、バイデン候補を米国のニューリーダーに選出し、トランプ大統領を再選しなかったことは、米国の有権者の賢明な判断であり、良識が示されたといっていいだろう。

 バイデン候補の勝利演説は、分断の統合と米国の結束を強く意識したものであった。トランプ大統領によりぐらつかされたとはいえ、米国の自由と民主主義はやはり底堅く、なお輝きを失っていない。それはもちろんバイデン候補がカマラ・ハリス氏を副大統領に指名し、ハリス氏が米国初の女性副大統領に就任予定であることにも示されている。

日米安保、沖縄の基地問題について

 それでは今回の大統領選挙の結果は、日本にどのような影響をもたらすだろうか。特に花瑛塾として力を入れている沖縄の基地負担の軽減につながるだろうか。

埋立工事が進む辺野古:東京新聞より

 沖縄の人々にとっては酷かもしれないが、私たちの見通しをいえば、バイデン候補が米国大統領になっても沖縄の基地負担がただちに軽減されるとは思えない。

 もちろんトランプ大統領よりは若干ましだろう。トランプ大統領は昨年、ロシアとの間で締結されていたINF(中距離核戦力)廃棄条約を離脱した。これに関連して、米軍が中距離弾道ミサイルを沖縄に配備する計画だと報じられている。この計画が実現されれば、沖縄の基地負担は増加するばかりか、沖縄が破滅的なミサイル戦闘の戦場となる可能性が高まる。そうしたなかでバイデン候補がトランプ大統領の外交を見直し、INF廃棄条約に復帰すれば、あるいは沖縄への中距離弾道ミサイルの配備計画も白紙となるかもしれない。

 他方、平成7年(1995)に起きたあの痛ましい沖縄少女暴行事件当時の米国大統領は、民主党クリントン元大統領であった事実を忘れてはならない。

 事件をうけてクリントン元大統領は謝罪し、国防長官であったペリー元国防長官は沖縄の基地縮小や移転を検討したが、日本政府は米国に在沖米軍基地の移転や縮小は求めなかった。そして沖縄からの強い抗議や反発をうけて、翌年に普天間飛行場の返還を柱とするSACO合意を結び、沖縄の基地負担が軽減されると喧伝したが、普天間飛行場の返還の名の下に辺野古新基地建設が強行されるなど、SACO合意の実態は基地負担の軽減どころか、基地機能を強化するものであった。

 こうした事実からいえることは、沖縄の米軍基地の永続を望んでいるのは、誰よりも日本政府自身であるということだ。そうであるのならば、バイデン候補が大統領に就任したからといって沖縄の基地負担が軽減するとは考えられない。もちろんトランプ大統領の再選は沖縄の基地負担の軽減にとって論外であるが、いずれにせよ誰が米国大統領になろうと、日本がかわらない限り沖縄の基地負担の軽減はありえない。

 言うまでもなく米国は日米安保条約の一方の当事者であり、日米安保条約や日米地位協定など日米安保体制の問題について考える必要がある。また民主主義国として沖縄の民意を尊重するべきことも当然である。しかし最後の最後は、日本政府が米国に沖縄の基地問題を説き、基地負担の軽減のために具体的で合理的な主張をし、毅然とした態度で交渉をしなければ、米国は動かない。

 バイデン候補を次期大統領とした米国民の賢明な判断と良識に敬意を表しつつ、歓迎しつつも、これをもって日本がかわる、沖縄の基地負担が軽減される、対米関係がかわるといった裏返しの対米依存のようなねじ曲がった期待は抱かず、日本として次期大統領に何を訴え、米国をどう動かすかを考えていく必要がある。